体の声に耳を澄ませてみる――
それが漢方に限らず医学の基本的なスタンスです。
漢方は人間ひとりひとりの体を「バランスのとれた世界」ととらえ、微妙に崩れたバランスを元に戻すことで不調を治してゆくのです。だからこそ、よりトータルに健康をめざすことができるのです。
古くて新しい知恵、「漢方」。あなたもその力を活用して、自分自身の自然治癒力に目覚めてみませんか。
漢方は今ブームと言ってもいいような状況にありますが、医療界全体が漢方に好意的であるかと言えば、決してそうではありません。インターネット上での議論でも漢方擁護派と攻撃派とに真二つに分かれ、激しい論戦を戦わせたりしています。
擁護派の方々はもちろん漢方の優れた効果を知って、患者さんのいろいろな悩みや苦しみともにたたかう手段として有用だという意見です。かたや、攻撃派の方々は、その辺の草や根っ子なんかを煎じて飲ませて科学的根拠もない治療をするなんて詐欺まがいだ、というものものしさです。
長い議論を傍観しながら、私はこの議論には結論は出ないなと思っていました。
私は患者さんのためになるなら、科学的根拠など必要ないと割り切っている人間です。もちろん体に毒になるようなことをしてまで治療を追及してはいけないと思いますが、その点漢方薬は、長い歴史を耐え抜いてきた実績があるのですから、ある意味では新しい西洋薬よりもはるかに安全であると言えます。
「漢方薬は得体が知れない。」確かに、漢方薬の成分のすべてが薬理学的に確かめられてはいないのですから、「得体が知れない」という批判は免れえません。
そこのところが「気持ち悪い」という医者は永久に漢方治療はしないでしょうし、その所が気にもならない医者はすっと漢方医学を導入できるのです。患者さんも同じです。あんな臭い(それほど臭くないという方がほとんどなんですが)ものじゃなくて普通のお薬で治療してほしい、と言う方もいて当然なのです。
実際、当院のような漢方を前面に出しているところでも西洋薬だけで治療している患者さんもおられるのです。結局、好きずき。
その患者さんのその症状を治療するのに一番適している方法はなにか、を考えて治療するのが一番大事なのです。その結果、当院では漢方治療が選択されることが多いと言うだけのことです。
なにがなんでも漢方で、というスタンスもまた硬すぎて良くない、と思います。
漢方治療は副作用がないから安心だ、と言って漢方薬を求められる患者さんが時々おられます。
これは大きな誤解です。
漢方薬にも副作用はあります。
痒みが出たり、湿疹ができたり、と言って軽度のものから、血液中のカリウムという成分が減ってきたりと言うほってはおけないものまでいろいろあります。時には肝臓や肺に障害がきてそのために入院しなくてはならなかったり、けっこう漢方といえども副作用は侮れません。
ですから、こまめに様子を見ながら飲んでいただく必要があるのです。
時には血中のカリウムを測ったり、肝臓や肺の検査を行うことがあります。
ほとんどの患者さんは副作用はなく経過しておられますが、私の13年間の漢方治療でひどい肝障害が1例、間質性肺炎と言う重篤な肺の炎症をきたしたのが2例あります。
どちらも生命に別条なく回復されましたが、間違いなく漢方薬の副作用で、非常に心配したものです。
漢方といえども、薬は薬。慎重に投与しているというのが本当のところです。